一期一絵(Onceshot in Life-time)#364 2008年8月29日 函館市宝来町「たこやき太閤」 たこ焼き一筋48年、函館最古にして最高、伝説のたこ焼き屋「くいだおれ」二代目ご主人の鮮やかな手さばき

「くいだおれ」48年間の伝統と意地

函館人なら、市長の名を知らずとも「たこ焼きくいだおれ」の名は知っている─と思う。道頓堀の某太郎とかではなく、大門広小路にあった店のことである。創業は1960年。函館はもちろん、おそらく北海道でも一番に古い「伝説の店」である。バブルはじける頃にグリーンベルトから姿を消して以来、記憶の引出の隅にしまい忘れたまま、ずいぶんと長い時間が過ぎた。それが「たこやき太閤」なのだ。数年前に「くいだおれ」の名前が使えなくなったこと、わけあって現在の場所に店を構えたことを訥々と語ってくれたご主人。現在の場所に落ち着いたのは2004年とのことだが、いろいろあったのだろう、言の葉の間(ま)に漂う万感の思いの残滓が切ない。それでも48年間の伝統の味を守り通した、その静かな誇りをビンビンに感じることが出来た。思わず夜明けのフィラデルフィアの街に向かってがっつり両手を突き上げ雄叫びをあげたくなる。
「それじゃ作りましょうか。」
いささか興奮気味の私に、しっかりピリオドを打ってくれたご主人。水を得た魚としかいいようのない滑らかで淀みない動きに驚きつつ、シャッターを切り始めた。なんというか、とても良い。
まるで牛乳のようにゆるい生地を、丁寧に重ねては焼きあげてゆく。ゆったりとした動作とは対照的な素早さで、たこ焼きをひっくり返す。生地がゆるいから、充分な焼き色がつくまでにはけっこう時間がかかる。充分に焼き色がつくまでじっくり待って、素早く返し、新しい生地を重ねる。それを辛抱強く繰り返す。焼いているというより、まるで育てているみたいだ。
「亀田八幡宮の例祭、今年も出るから。うちの店、行列がすごいんだよ。」
嬉しそうに語るその表情には、積み重ねてきた自信と力強さが滲んでいる。ちょっと格好いい。
15分ほどかけてじっくりと焼き上げたたこ焼きの見事さを紹介するのは、また別の機会にしよう。出来れば、9月14日〜16日の亀田八幡宮例祭を訪ねることをお勧めしたい。たこ焼き太閤、旧名「たこ焼きくいだおれ」は今なお健在だ。そのことを自分の目と舌で「識って」欲しいと思う。
今年の亀田八幡宮例祭の詳細はこちらのHPから

撮影データ

2008年8月29日 函館市宝来町 たこやき太閤(旧くいだおれ) MAP 
NIKON D300 焦点距離25mm(35mmフィルム換算) 1/60 F4.0 露出補正+1